良い評判も悪い評判も伝わりやすいが、良いサービスが普及するとは限らない

この記事を書いた人

1994年生まれ。東北大学を卒業後、豊橋市役所へ入庁。「文化のまち」づくり課と出向(経済産業省)を経験した後、株式会社リクルートで法人営業に従事。2023年9月に現在の株式会社リクロスを創業し、市役所・中央省庁・営業の3領域の経験を活かし自治体ビジネスの支援に取り組む。戦略立案からアプローチ、商談、入札・プロポーザルまで一気通貫で支援。著書に『自治体ビジネスの始め方』(秀和システム新社)がある。

木藤昭久

こんにちは!リクロスの木藤です。

今回は、「良い評判も悪い評判も伝わりやすいが、良いサービスが普及するとは限らない」という内容を、「行政は縦割り」「自治体同士は横のつながりが強い」という話と絡めて書いていきます。

まず、「行政は縦割り」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。

これは世間的なイメージ通りで、実際に自治体の組織は明確な縦割り構造になっています。一方で、意外に思われるかもしれませんが、自治体同士の横のつながりは強く、様々な情報交換が行われています。

「縦割りなのに横のつながりが強い」は一見矛盾するようですが、自治体営業を支援している感覚として間違いありません。

自治体ビジネスに取り組む企業にとって、行政の縦割り構造と横のつながりを理解することは重要です。

元市役所職員としての経験も踏まえながら解説できればと思います。

目次

「行政は縦割り」は世間的なイメージ通り

まず、行政は縦割り組織であるという認識は正しいです。

自治体では、それぞれの部署に担当する政策分野や業務が明確に割り当てられています。例えば、観光振興は観光担当部署、子育て支援は子育て担当部署、環境政策は環境担当部署といった具合です。

自治体職員は、基本的に自分の部署に割り当てられた業務に責任を持ち、それ以外の領域には原則として手を出しませんし、出せません。

また、縦割りなのは部署間だけではなく、同じ部署内の業務についても同様です。

自治体では、業務ごとに担当者が明確に割り当てられています。同じ部署に所属していても、担当業務が違えば詳しい内容を把握していないことは全く珍しくありません(むしろ普通です)。

「同じ部署なのだから、ある程度は情報が共有されているだろう」と考えてしまうと、認識のズレが生じる可能性があるので注意ですね。

一方で、自治体同士は「横のつながりが強い」

行政組織の内部は縦割りですが、自治体同士の横のつながりは比較的強い傾向にあります。

自治体は、それぞれ独立した組織であり、地域の事情や政策の優先順位も異なりますが、基本的な組織構造や業務の進め方は全国で似通っています。

よって、他の自治体がどのような取り組みを行っているのか、どのようなサービスを導入しているのかといった情報は、自治体職員にとって非常に参考になります。「非常に」です。

木藤昭久

自治体職員にいちばん聞かれる質問は「他自治体での実績は?」ですね。

自治体同士には競争関係にある部分もありますが、同じ行政組織としての仲間意識もあるように思います。

特に自治体向けサービスについては、民間向けサービスのようにインターネット上で口コミやレビューを簡単に確認できるとは限りません。

自治体職員が特定の企業やサービスについて、公の場で率直な評価を発信することは、立場上なかなか難しいからです。

そのため、自治体職員同士が電話やメール、チャットなどで情報交換することが、サービスの評価を把握する手段の一つになっています。

例えば、他の自治体が導入しているサービスについて、実際の使い勝手や運用上の問題、企業側の対応などを確認することがあります。

公開されている導入事例だけではわからない、実際の利用者としての率直な感想が共有されることも当然あるでしょう。

良い評判も悪い評判も伝わりやすいが、良いサービスが普及するとは限らない

自治体同士の横のつながりが強いということは、企業やサービスに関する良い評判も悪い評判も伝わりやすいということです。

例えば、ある自治体でサービスを導入し、職員から高い評価を得られたとします。その評判が他の自治体に伝われば、企業が直接営業活動を行っていない場面でも名前が挙がる可能性があります。

ただし、ここが最大の注意点なのですが、良い評判が広がりやすいからといって、必ずしも良いサービスが普及するわけではありません。

自治体は税金を使って事業を行う以上、庁内や議会、住民に対して説明責任を負っています。そのため、サービスの良し悪しだけでなく、導入実績があるかどうかが非常に重視されます。

サービスの評判はそれほど良くなくても、すでに多くの自治体で導入されている企業と、サービスの評判は良いものの導入実績が少ない企業があったとして、前者の方が選ばれやすいことも十分に考えられます。

「すでに多くの自治体で導入されている」という事実そのものが、自治体職員にとって非常に強い説明材料になるからです。

木藤昭久

企業が「品質はうちがNo.1です」と主張しても、自治体から「ではなぜいちばん普及していないのか?」と疑われてもおかしくありません。

つまり、良い評判も悪い評判も広がりやすい一方で、実際の導入判断においては実績が大きな影響力を持ちます。その結果、必ずしもサービスの品質や評判に比例して普及が進むとは限りません。

住民にとって使いづらいシステムがずっと契約され続けている場合、必ずしもそれが品質観点でいちばん良いシステムとは限らず、単に「実績がいちばん多いから」「特に不満の声は挙がっていないから」「関係者を多く巻き込んでまで更新する理由がないから」「使い慣れてしまったから」という理由かもしれません。

自治体ビジネスは先行者優位が働きやすい

これまでお伝えしてきた構造から、自治体ビジネスでは先行者優位が働きやすい傾向にあります。

先行企業が導入実績を積み上げ、その実績が次の自治体での導入につながり、さらに実績が積み上がっていくという循環が生まれやすいからです。

一方で、後発企業がどれだけ優れたサービスを開発しても、自治体での導入実績が少なければ営業活動に苦労する傾向にあります。

木藤昭久

BtoBと同様にBtoGでも「サービスの品質が高いこと」と「営業活動で有利になること」は必ずしも一致しないわけですね。

もちろん、先行企業が必ず勝ち続けるという話ではありませんし、実績さえあればサービスの品質が低くてもOKという話でもありません。

ただ、自治体ビジネスにおいては、他の自治体で導入されているという事実そのものが非常に強い説得材料になることを理解しておく必要があります。

拙著『自治体ビジネスの始め方』でも、自治体ビジネスは「実績 is king」と繰り返しお伝えしています。

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だからこそ、これから自治体ビジネスに参入する企業は、まず数自治体で導入実績をつくることを優先すべきです。必要に応じて無償の実証実験なども選択肢に入れながら、早期に実績を積み上げ、その実績を武器に横展開していくことが重要になります。

そして、受注後も期待以上の貢献を重ね、良い評価を積み上げていく。

自治体同士の横のつながりが強いからこそ、こうした地道な取り組みが中長期的な競争優位性につながると考えています。

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